ラティリカ

君の隣で

 洗いたてのシーツの柔らかな感触。
 カーテンの隙間から入り込んできた暖かな日差し。

 そろそろ起きないと……。
 ロイズが起こしに来る……。

(……あれ?)
 なんだろう、……これは。
 指を滑るとても柔らかな感触。
 触ってて、心地良い……。

「……おはよう」
「……?」
 私はまだ、夢を見ているのだろうか?
 すぐ目の前に、フワフワの金髪の天使がいる。
 クシャクシャとその髪を撫でると、天使は少し困ったように微笑む。

「もしかして、まだ寝ぼけてる?」
「…………」
「…………ルディー?」
 私は思い当たる名前をあげてみる。

「正解」
「!!?」
 天使……じゃなくて、ルディー!?
 自分のとんでもない過ちにやっと気付き、私はガバッとベッドから飛び起きた。

「な、なんでここにルディーがいるのよ!?」
「なんでって。僕のベッドだから」
 ルディーはなんでもないかのように、二コリと笑っている。

「いや、その……そうじゃなくって……」
 しもどろになって弁明しようとすればするほど、私の頭の中はパニック状態だった。
「プププッ……」
「わ、笑ってる場合じゃないでしょ!」
「ごめん、ごめん……。つい反応が面白くって……」
「うぅぅ……」

 もしかして、慌ててるのは私だけなんだろうか?
 いや、でもこの状態はさすがに……。
「……その……1つ質問してもいい?」
「なに?」
「どうして私は、ルディーのベッドで寝てるの?」
 こっちはヒヤヒヤしながら答えを待っているというのに、彼は相変わらずの様子だ。

「ひどいな……。忘れちゃったの?」
 昨日は、確か、夕方遅くまで話をしてて……。
 それから……それから良く覚えていない。
 ルディーは眉を潜めて悲しそうな表情を見せる。

「私、もしかしてあなたになにかした?」
「そりゃあもう、情熱的に求めてきて……」
「な、なに!!?じょ、情熱的!?
 も、も……しかして、とんでもないことをしてしまったのだろうか?
 ……いえ、落ち着いて!そんな記憶、全然ないわよ。

「う……嘘よね」
「うん、嘘だから」
「!!……わ、私をからかってるの!?」
 さっきから、すっかり彼のペースに巻き込まれてしまって、調子を崩されてる。

「本当のところ……、カロリアが話の途中で寝てしまったから、そのまま泊めただけなんだ」

 ルディーの言葉に、私は言い返す言葉がなかった。
 確かに、一度寝てしまった私は、恐ろしいくらい寝つきが良くて、ちょっとしたことじゃ目を覚ましたりしない。
 昔から、そのことを何度も注意されている……。
 城に戻った時のことを考えると、キリリと胃が痛んだ。

「ごめんね、勝手なことをして」
 非は明らかに自分の方にあるというのに、彼は少し落ち込んだように目を伏せる。
「いや、その……こっちの方こそ、迷惑をかけてごめんね」
 寝てしまって起きない私を前に、途方にくれた彼の姿が目に浮かぶ。

「迷惑……?そんなことないよ」
「気を使わなくてもいいのよ」
 気なんて使ってない……そう言って、ルディーは静かに首を振る。

「天使のようなあなたの寝顔を、ずっと特等席で見ていることが出来たから……」
 役得だったよと笑う彼に、私はしばらく顔を上げられなかった。

おわり。

● TOP