ラティリカ

2人の関係

 会えば喧嘩ばかりしてしまうのに、会わないとあの人のことばかり考えてしまう。
 そんな不可解な相手、それがディオスだった。

「おい……。
さっきからなに眉間にシワなんてよせている。
変な顔が益々おかしくなるぞ」
 私は顔を上げ、キッと目の前の悪敵を睨み付けた。
「あなたに顔のことでとやかく言われる筋合いはないわよ」
 そりゃあ、ディオスの周囲に集まって来るような綺麗に着飾った女の子の真似なんて
到底出来やしないし、私はこのスタイルを変えるつもりなんてない。
 楽しくもないのにニコニコ笑ったり、嫌いな相手に愛想をふりまくなんて、真っ平ごめんよ!
「ふむ……」
「な、なによ!」
 不躾な態度でジロジロ私の顔を覗き込んでくるディオスに、私は思わず後退りする。
「別に悪くないと思うがな」
 私の顔を覗き込んだまま、ディオスはなにか納得したように頷く。
「だから、なにが」
「可愛いと言っている」
「!!!」
 思いがけない言葉に、私は不意を突かれて顔を赤く染める。
「き、急になにを……。
もしかしてなにかおかしなものでも食べた?」
「失礼なことを言うな。
私は正直に思ったことしか言わない」
 ディオスは不可解そうに眉を潜めるも、すぐに私に向かい合って極上の笑みを浮かべる。
 この余裕をも感じさせる態度は、明らかに幼い頃にはなかったものだ。
「あなたね……もしかして、会わない間にすごいタラシになったんじゃ」
「タラシ?誰のことを言っている」
「だから、あなたが!!」
 わけの分からないといった感じで首を捻るディオスに、私は確信する。
 この人、天然のタラシだ!
 存在自体が女性を引きつけているというのに、それに気付いていないなんてタチが悪すぎる。
「わ……私は騙されないわよ」
「なんのことだ」
 本当に分からないといった顔を見せるディオスに、私は大きな溜息を一つ吐く。
「こんな風に育てた覚えはないんだけどな……」
 どうせなら、女に受けの良い見た目や体質に育つよりも、私の役立つように育って欲しかったわ。
「……?
俺はお前に育てられた覚えはないが」
「だから、例えの話よ!」
 でも、育てたといっても過言じゃないと思うの。
 お坊ちゃま体質だった彼に、色々と人生の荒波を教えてあげたんだから。
 ……そりゃあ、多少行き過ぎたこともあったことは、認めてあげないこともないけど。
 それも、人生経験の一つと考えれば、良しよね。
「…………」
「な、なによ……」
 さっきから百面相を繰り返している私の顔を、じっと見つめている視線に気づく。
「さっきから、何を考えているんだ?」
「別に、なにも」
 昔、彼を巻き込んだ事件の数々を思い出してたとは、さすがに当の本人を前にして、言う勇気はない。
「…………」
「……って、どうしてそこで、そんな顔をするのよ!」
 長い睫毛を伏せ、物憂げな表情を見せる彼に、思わずドキリとしてしまう。
 や、やばい……これじゃあ、天然タラシの思うツボじゃない!

「俺と一緒の時に、他のことを考えたりするな」
「え……っと……」
 ディオスの言葉に、彼が何を言わんとしているのか、一瞬、考え込んでしまう。
 もしかしてこれは、彼を前に、他のことを考えてたから拗ねてる?
 こんなデカイ図体に育っておいて、まさかね……ハハッ。
「別に……その、他のことを考えてたわけじゃないのよ」
「本当か?」
 ディオスはなおも疑いに満ちた瞳で、じっと見つめてくる。
「本当もなにも。
ただ、あなたのことを考えてただけなんだから」
 正確には、彼にした自分の仕打ちについてだけど……。
「そうか、俺のことを考えていたのか」
 さっきまでの表情が嘘のように、パッと花が咲いたように華やかに笑う。
 私はその笑顔に、見惚れてた。

「俺といるときは、俺のことを考えてろ。
そうじゃないときも、ずっと……」

おわり。

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