ラティリカ

満天の星が輝く夜に

 その夜、……夜空には満天の星空が輝いていた。

 こんなに綺麗な夜なのに大人しく寝ているのが勿体なくって、私は侍女が眠っているのを確かめると、そっとベッドから抜け出した。

「んー……」
 大きく背伸びをして、お気に入りの芝生の上で大の字に横になった。
 バラ園のちょうど中央にあるこの庭園は、遠くからでは木々が邪魔をして、一度中に入ってしまえば見つけることが難しい。
 嫌なことがあるとすぐに逃げ出しては、ここへ隠れて執事のロイズを困らせていた。
 裸足で出てきたのがばれたら、また怒られるな……。
 せっかくの美貌を歪め、眉間にしわを寄せるロイズの顔を思い出し、私は苦笑していた。

「……なにがそんなにおかしいんですか?」
「ええぇっ!!!」
 黒い影が夜空を遮り、真上から本物のロイズが私を見下ろしていた。
 真っ直ぐに注がれるブルーグレイの瞳は、今はこの月明かりの夜よりも暗い。
 そんな瞳で見つめられると、心の奥底まで見透かされた気持ちになる。
 だから、夜に会う彼は、少し苦手だ……。

「き、きゅうに……現れないでよ」
「それはそれは、失礼いたしました」
 ロイズは私の言葉など気にとめた素振りも見せず、スッと腕を伸ばして私の手を握る。
 そのまま肩を支えるように抱き起こそうとするのを、慌てて静止した。
「……これくらい、1人で立てる」
 黙って抜け出した負い目と、じっと見つめられる居心地の悪さに、私は彼の目をなるべく見ないようにしながら、立ち上がった。
「……追いかけてきたの?」
「それが私の役目ですから」
 何事でもないように言う彼の態度に、少しだけカチンとくる。
「悪かったわね!勝手に出てきたりして」
「そう思うなら、1人で部屋を抜け出さないことですよ」
「うぅ……」
 棘のある私の言葉にも、ロイズはサラリと受け流す。
 彼が平静であればあるほど、私の中はいつも穏やかじゃなくなる。
「なんでバレたんだろ……。
絶対に、見つからないと思ってたのに」
「この世に絶対なんて、あるわけないんです」
 絶対なんてあるわけない……か。
 いかにもロイズらしい意見よね。

「そんなの、分からないじゃない。
次こそは、絶対見つからない所に隠れてやるんだから」
 そして、慌てて私のことを探し回る彼を、密かに笑ってやるんだから。
「見つけますよ……絶対にね」
「だから、 次は見つからないって!」
 自信満々な彼に、私はフンッと横を向く。
「無理ですよ、それは……」

「世界中を探し回ったとしても、あなたを見つけ出してみせますから」

おわり。