「変わってねぇーな、この家も」
翔悟は家の中を懐かし気にキョロキョロと見渡した。
こんな風に、翔悟が家にくるのは久しぶりだ。
昔は、家が隣同士という理由で、お互いの家まで行き来することもあったけど……。
いつの間に、距離をとるようになったっけ?
「そうだねぇー。
お母さんやお父さんが海外に行っちゃった以外は、これといってかわってないよ」
「ほら、これとか覚えてる?」
部屋に飾ってある河童のぬいぐるみを、私は掴んでみせた。
「これって……。
まだ、持ってたのか?」
翔悟はなにか思い出すように、少し目の離れた河童のぬいぐるみを優しく撫でた。
まさか本当に覚えているとは思っていなかったので、少し意外な気がした。
「これって、お前に似てたんだよな……。
なんか、この愛嬌のある顔が!」
「そんなに私の顔って、不細工なの〜」
情けない声を上げる私に、翔悟はポンポンと優しく頭を叩く。
「なに変な顔してんだよ」
「で、でも……」
「不細工じゃなくて、愛嬌があるって言ってんの」
愛嬌って褒め言葉なんだろうか?
まあ、不細工よりはましな気がするけど。
「翔悟君が預かってろって、私に昔押し付けてきたのに、
結局そのままになっちゃったんだよね」
UFOキャッチャーでとった景品の一つを、翔悟がぶっきらぼうに
私に差し出してきたのを、今でも最近のことのように思い出せる。
「あれは、預けたんじゃなくて……本当は……」
翔悟は珍しくはっきりしない口調で、なにやらブツブツと独りごちっているようだった。
「まあ、いいや。その河童はお前にやるよ」
「本当?大切にするね」
私は嬉しくて、ニッコリと笑う。
数少ない大切な思い出の品……。
むろんこれからも大切にするつもりだ。
「悠希、お前……」
翔悟が何か私に言いかけたその時……。
(ばーーーーーーーん!!!)
「こら!!貴様、悠希の部屋でなにしてんだ!!」
「お、お兄ちゃん!?」
突然の訪問者に、私も翔悟も驚いて目を大きく見開く。
「俺のいない間にノコノコ部屋に上がりこんできやがって!
翔悟、いくらお前でも容赦しねぇーからな……」
お兄ちゃんは、今にも殴りつけかねない勢いで翔悟を睨み付けている。
ど、どうしてこんなことに……??
「ったく……。いい加減に妹離れしろよお前……」
天の助けか、私がオロオロとしていると、お兄ちゃんの背後から
ヒョロッとした長身の男が姿を現す。
「志賀さん……」
姿を現したのは、お兄ちゃんの親友の桂だった。
桂は翔悟に飛び掛りそうなお兄ちゃんを
後ろから羽交い絞めにすると、ズルズルと引きずっていく。
「邪魔してごめんね、悠希ちゃん」
「てめーー!放せ、こら!桂!!!」
「はい、はい……。俺たちはこっちね」
お兄ちゃんと桂の力の差は瞭然のようで、
しばらくしてパタンと遠くでドアの閉まる音が聞こえた。
「ご、ごめんね……翔悟君」
結局、その後、翔悟がその時なにを言おうとしてたのか聞き出すことは出来ず、
その真実を知るのは、それからだいぶ後のこととなる……。
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