「会長……。また吾妻さんが、いなくなりました」
文化祭前のひたすら忙しいこの時期に、会長の機嫌がさらに悪くなるであろうことを、
内心ビクビクとしながら報告した。
できれば私としても、こんな報告をピリピリとしている会長にするのは嫌なのだけど、
吾妻がいないことには、こちらも仕事にならない。
「あいつ……また悪い癖がでたな」
案の定、こめかみをピクピクとさせて会長は苦悩の表情をみせる。
う、う……。私のせいじゃないのに。
「鹿嶋、お前探して来い」
「えぇ……っ。私がですか?」
「今、あいつとパートナーを組んでいるのはお前だろう。
責任をもって探し出せ」
「ふぅぇー……」
有無を言わせない会長の言葉に、私は仕方なく吾妻を探しに行くことになった。
「吾妻さーん……。出てきて下さーーい」
ミンミンと煩いくらい鳴いている蝉の声に耳を押さえながら、私は吾妻を捜していた。
本当に、あの人ときたら、一度いなくなると見つけ出すのは至難の業だ。
「あれーー…?どうしたの、悠希ちゃん」
「ぎゃあぁぁ!!」
突然、屋上の貯水庫から顔を覗かせた吾妻に、一瞬、本当に宙に浮いた気がした。
そんなところから出てくるなんて、心臓に悪すぎだよ……。
「ぎゃあーって……。悠希ちゃん、叫び声に色気なさ過ぎ」
「ほ、ほっといて下さい」叫び声まで色気がないって……。
そりゃあ、妙に色っぽい吾妻さんに言われたら、言い返しようがないけど。
だけど、それって女としてどうなんだろう。
「吾妻さん!仕事に戻ってください。会長もおかんむりですよ」
「春臣が?」
「そうです。カンカンです!」
「ふぅーーん。まあ、春臣はほっとけばいいよ」
「そんなぁーー……」
会長の名前を出しとけば、少しは考えてくれるかと思った私の考えが、どうやら甘かったみたいだ。
私の口から思わず情けない声が漏れる。
「ふふ……。困ってるみたいだね」
「一体誰のせいだと思っているんですか!?」
「とりあえず僕のせいかな?」
もしかしなくても、あなたのせいです……。
突っ込みたくなるのを押さえて、とりあえず必死にお願いしてみることにした。
「……いいよ、戻ってあげる」
「本当ですか!?」
私の願いが通じたのか、にっこり笑うと、吾妻さんは貯水庫の上からひらりと飛び降りてくる。
「ただし、君がキスしてくれるなら」
「えええぇっ!!!」
すぐ目の前に迫った顔に、カチンコチンに固まっていた。
キ、キスって、なに!!?
「あ、真っ赤になって可愛いー」
「あ……あ、吾妻さん!!」
やっぱり私って、この人にからかわれる運命にあるのだろうか。
とんでもない人と、パートナー組んじゃったなぁ……。
今から後悔しても始まらないが、不安がないっていうのも嘘になる。
「ほら、悠希ちゃん行くよ」
「待って下さい!!」
先を行く吾妻さんを、私は慌てて追いかけていった。
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