お菓子はいかが?



ここは、校舎から少し離れた森の中にある旧校舎……。
誰もいないはずの旧校舎の一室から話し声と
またまた旧校舎には不似合いな甘い香りが漂ってくる。


「できた!」
オーブンの中から取り出したるは黄金色に焼けたのクッキー。
我ながらなかなかの出来だ。
「おっ、出来たのか?」
それまで、あぐらをかいて雑誌を読んでいた翔悟君が、嬉しそうに顔を上げる。
「どれどれ。味見してやるよ」
翔悟君はヒョイッと一枚つまみ上げると、口の中にほおり込んだ。

「ど、どお?」
私はおそるおそる尋ねてみる。
家で家事全般を引き受けている私は、和食なんか結構得意だったりするのだけど、
どういうわけか、お菓子はあまり作った記憶がない。
出来栄えはイイんだけど、味はどうなんだろう?

「か!か……塩かれーーーよ!!」

翔悟君は、顔をしかめると、ペッペッと吐き出す。

「ふぇーーー……」
「お前、まさか塩と砂糖間違えたな!?」

慌ててクッキーの中に入れたものを確かめると……。
し……『塩』って書いてある!!

「…………ごめんなさい」
「お前なぁ……」
「まあまあーー。そんなしかめツラしない。
そんなドジなところが、彼女の可愛いとこだろ?」
塩入クッキーを食べた翔悟君に、吾妻さんが絶妙なタイミングでフォローに入ってくれる。

「じゃあ、塩と砂糖を間違えるような、ドジ女が作ったクッキー。
あんたも食べたらいいだろ」
「うーーーん。
それは、いくら彼女が魅力的でも、勘弁?かな」
ニッコリ笑ってきっぱりと断ってる……。
う、う……。吾妻さんって、そんな人だよね。

「できなけりゃ困るのはこいつなんだよ。
パテシエ大会で、絶対に優勝しなきゃならないんだぜ!」
「翔悟君……」

そうなのだ、今回の依頼を解決する為には、
今度のパテシエ大会で優勝しなければならない。
だから、こんな初歩的なミスをしている場合じゃないのだ。
それにしても……。
依頼解決の為とはいえ、旧校舎の家庭科室を使えるようにしてしまう
学園なんでも屋っていったい……。

「私頑張るよ!次は絶対に美味しいお菓子を作ってみせるから」
依頼してきた子の為にも、絶対に優勝するっきゃない!
「おう。そのイキだ。頑張れよ」
「頑張ってね、悠希ちゃん」

応援してくれている二人に答えないと。
私はもう一度チャレンジするべく、次の準備にとりかかったその時……。

「……やってるようだな」
急に扉が開くと、会長が中に入ってきた。
「会長」
「ふ……。
お前の作るものだから、どんな不細工なお菓子が出てくると思いきや、
なかなかの出来だな。
どれ、俺が試食してやる……」
会長は先程出来上がった塩入りクッキーを、止める間もなく口へと運んでしまった。

「あ!会長、それ……」
「くくく……食いやがった」
「あ〜ぁ」
三人の目が、一斉に会長に集まる。

「どうした、みんなして。
なかなか味も美味じゃないか。これなら、優勝間違いないぞ」

満足そうな会長の顔に、そのクッキーがまさか塩入りとは言えなくなってしまった。
会長って、とんでもない味音痴???