『4月1日のお茶会』
エイプリルSS 『4月1日のお茶会』
『……じゃあ、待ってるから。今度は、忘れないで来てね』
そう釘を刺されてから、今日はその約束の日。
リオンが待っている執務室へと重い足取りで向かっていた。
それというのも、以前リオンと約束していた日を、私が錬金術に夢中になりすぎてすっぽかしてしまい。
リオンは多分、その時のことを注意して念を押したのだろう。
もしかしたら、嫌みの1つくらい言われるかもしれない。
そんな不安を胸に、扉をノックする。
「やあ、いらっしゃい。待ってたよ」
思いがけず、柔らかな笑みを浮かべたリオンに出迎えられた。
私が心配するほど、リオンは気にしていなかったのかもしれない。
ホッとし、部屋に入った私の目に飛び込んできた光景に、思わず言葉をなくしてしまう。
「リオン……。これって、どういことなんですか?」
「何って、見ての通り君のためにお茶とお菓子の用意をしたまでだけど」
テーブルの上には、溢れかえらんばかりのお菓子が用意され、お菓子を彩るように、白磁に金で縁取られた花瓶に美しく飾られた花や、銀のティーセットが所狭しと並べられている。
「気に入らなかったのなら、別のをすぐに用意させるけど」
「いえ、そういうことではなく……」
「今日は、執務を手伝って欲しいから来るようにと言われたはずでは」
多忙なリオンの執務を、時々、私が手伝うことがある。
てっきり、今回もその用件だと思っていただけに、状況が上手く把握できない。
「今日は、4月1日だから。嘘をついてもいいんだよ」
4月1日……。
あ、今日は、エイプリルフール。
「こんな嘘でも付かなければ、君は僕のお茶の誘いにのってくれないだろうし」
どこか拗ねた口調で呟く。
やっぱり、この間、誘いをすっぽかしてしまったことを、忘れてはいなかったようだ。
「こっちに来て、一緒にお茶にしよう」
せっかく用意して貰ったのだからと、椅子に腰掛けようとすると、隣から手を引かれ、リオンの膝の上に乗せられる。
「あ、あの……。これは、一体」
「どうかした」
「どうって……」
驚いて狼狽えている私に対し、リオンは面白そうに私の反応を観察しているようだ。
「ほら、せっかくのお茶が冷めてしまうよ」
紅茶の入ったカップを口元に傾けられ、仕方なく香りの良いアッサムティーに口を付ける。
「お菓子はどれが食べたい? 木の実に粉砂糖がたっぷりかかったクッキーも美味しそうだけど、こっちのメレンゲのパイもいいね」
お菓子の甘い香りに包まれて、口に運ばれるままにお菓子をかじる。
もしかしたら、この行為自体、私への仕返しのつもりなんだろうか?
だとすれば、甘んじて受けるべきなのだろうけど……。
「……っ。リオン?」
リオンの舌が胸元を濡らしていることに、驚いて体が硬直する。
「ごめん。君の可愛い顔に見惚れてて、うっかり粉砂糖を
こぼしてしまったみたいだ」
もっと深く探ろうと、胸の谷間の奥へと舌が動く。
ヌルついた舌の感触に、ぞくりとするほど震えが走る。
「……あぁ、とても甘いね。粉砂糖だけじゃなく、君自身が甘いのかな。もっと舐めたくなる」
「うそ……。私、甘くなんか……」
「確かに、君をここに呼んだ理由は嘘だけど。君が甘いのは本当だよ」
「どこまで甘いのか、体の隅々まで舐めて、確かめてみようか……?」
「いやっ……」
これ以上は堪えられないと、リオンの胸を押しのける。
「おっと、……危ないな」
ぐらりと背中が仰け反り、そのまま後ろに倒れてしまいそうになった私を、とっさに、リオンが受け止めた。
「もう離して下さい。怒っているのなら、そうハッキリと言って貰った方がどんなにいいか」
「怒る? 君に、怒っているつもりなんかないけど」
「嘘……っ」
「本当だよ。君を騙してまで、会いたかったのは本当だけど、君を困らせたかったわけじゃないんだ」
どこか困ったような苦笑いを浮かべると、リオンは膝の上から降ろしてくれた。
「君にただ、会いたかったんだ……。
君が喜んでくれる顔が見たかった」
「……それなら、次は、ちゃんとお茶に呼んで下さい。
私も、もう……忘れないように気をつけますから」
「それは、いい提案だね。次はそうしよう」
私の言葉に、リオンは笑顔で頷いてくれた。
これって、次の約束をしたことになるのかな……。
それはとても、素敵な約束かもしれない。